水琴窟のような音色

作品への思いとその技術を小さく分けてメモしていきます。

音色への思いとPureData

PureDataとは音響生成のソフトのことです。リアルタイムにパラメータを変えながら音を生成することができます。

音を鳴らすだけなら、録音した音をファイルにして再生したり、MIDI音源を使うともっと簡単です。しかし、人間の耳は録音した音の繰り返しを瞬時にわかってしまうし、誰かの作った音源の音を使っているだけというのも、どこかで飽きがくるのではないでしょうか。

ピアノやギターやバイオリンなど、楽器には独自の音色があるように、MATHRAXの作品にも独自の音色を作りたいと強く思っています。そこで、私たちの作品の音は「波形から作る」ことにこだわって、リアルタイムに変化をつけながら音響生成できるPureDataを使っています。

作品「ステラノーヴァ」からこのPureDataを使い始めていますが、作品「いしのこえ」で使いなれてきて、より音階や音色の表現が複雑になりつつ、整理されてきました。


音色を決める条件

「いしのこえ」には3つの台にのった石がありますが、石に触れると不思議な音色の音がするように考えました。アナログな楽器には構造や物理的な条件で音色が決まります。では、作品の音色はどのような条件で決めていけばいいのでしょうか。

この作品は茅ヶ崎市の中学生と一緒に制作したもので、海岸にいって1人1個の石を選んでもらいました。なぜその石を選んだのか、その理由も教えてもらったのですが、自分と重ね合わせたり、石が呼びかけているように感じたりと、その思い入れを聞くうちにだんだんと石が中学生1人1人のように見えてきました。

参加してくれた中学生たちを思い出すと、小学生でも高校生でもない時期の友達との距離感が懐かしく羨ましく思えました。作品にはその思いを重ねて、音にするなら「遠い記憶の中で聞いたことあるような音色のようで懐かしく思える音」にしようと考えました。

3つある台ごとにそれぞれ音色を変え、石ごとに音の高さを変えています。同じように並んでいて、音色のまとまりがありますが、石ひとつひとつは個性があり、同じ音がありません。

触れる感覚と音

石と音を考えた時に最初に思い浮かんだものは、石なのにコツコツたたくと綺麗な金属音のする不思議な石でした。しかし作品では石に手で触れるので「コツコツ」とは違うと思い、そっと触れる感覚にあった音を考えました。水面を指でそっと触れた時に広がる波紋のような、何か懐かしい音、石からしないような不思議な音、そんなイメージの音として「水琴窟のような音色」をベースとしました。


PureDataでの音色の作り方

ここでは、ベースとなった「水琴窟のような音色」の作り方をメモしていきます。

音色を変えるひとつの方法として「その音に含まれる倍音成分を変える」という方法を知り、PureDataでひとつの音を鳴らすタイミングで、3つの倍音を重ねて鳴らしてみました。倍音とは周波数が整数倍になったものなので、この3つの音は一定の周期でピッタリ重なり、1つの音のように聞こえます。

音源となっているPureDataのパッチを示しておきます。このパッチは、石に触れると送られるMIDIノート番号(音階を0〜127の値にしたもの)を受けて、音の信号を出力します。石ひとつひとつにこの音源のパッチが割り当てられていて、石の個数分の独立した音を出力します。

「inlet」からは、MIDIノート番号が入ります。ノート番号は3つに分かれて「+24」「+24」「-24」されます。12の倍数にすることでオクターブの異なる音となります。このパッチでは、MIDIノート番号を受けると、そのノート番号の「+24(2オクターブ上)」「+24(2オクターブ上)」「-24(2オクターブ下)」の3つの音をつくり、同時に鳴ることになります。たとえば、1オクターブ上の音は、もとの音のちょうど2倍の周波数の音になりますので、オクターブの異なる音を作ることが「倍音」を作ることになります。

3つの音は「line~」を使って簡易的なアタックとリリースを作り、エンベロープを変えています。倍音でも、少しニュアンスの異なる音にすることで、繊細に音色を変える要素としています。


上記の音源のパッチを使って、音を鳴らすサンプルです。この音は、単発で「ポコッ」と鳴るだけで、まだ響いてはいません。


水琴窟のように響いた感じは、「freeverb」エフェクトを使っています。お風呂の中で響くような音をつくるのに使いやすいエフェクトです。

「freeverb」はPureDataの機能拡張としてダウンロードできるものもありますが、PureData(Vanilla)だけで使えるものをこちらからダウンロードして使っています。https://github.com/derekxkwan/pd-vfreeverb

これで空間の壁で反響するような響きが加わり、水琴窟のような音色になりました。


作品「いしのこえ」の3つの台の音色は、このような方法で変化をつけています。

もっと音色を変えようと思えば、上記の「ongen」パッチのように倍音は3つである必要はありません。また、簡易的なアタックとリリースも数値を変えることでも、まだまだ音色は変えられます。さらに「osc~」を「phasor~」に変えると音のもとがサイン波からノコギリ波に変わり、ガラリと音色が変わります(変わりすぎるほどに)。複数ある倍音の全てまたは一部をサイン波やノコギリ波にしてみたり、と、バリエーションは無数です。


サンプルとして、PureDataのパッチをアップしておきます。

キーボードの「z」「x」「c」「v」「b」「n」「m」を押すと音がなります。

シカとタコ

CGでモデリング中のシカ

MATHRAXの久世です。そろそろあたらしい動物のデザインが欲しいなと思い、デザイン担当の坂本にお願いしたところ、シカとタコが生まれました。

先日、展覧会のお誘いを受けて広島の廿日市市に下見に行った時に、立ち寄った宮島でシカに出会ったんだそうです。タコはというと、金沢に旅行にいったときに近江町市場の魚屋さんで大きくて立派なタコを見かけたからだそうです。